転職情報サイトや自治体が運営する就活メディアから、当社はしばしば取材・記事作成のご発注をいただく。
具体的には、企業へ訪問取材をし、求人原稿やインタビュー原稿を書くというもの。
新聞の折り込み求人チラシのように募集条件だけが端的に書かれているものではなく、1記事につき数千文字となる性質の案件だ。
最近はカメラマンを手配して、原稿と共に写真素材一式も併せて納品することも増えた。
そして、ちょっとづつノウハウも蓄積されてきた。
たんにそれをため込んでいても仕方がない。
この求人広告という独特の分野で背中にジットリと冷や汗をかきつつ得たものを公開して、もしどなたかのお役に立ったり暇つぶしになるならば、ちょっと嬉しい。
※予防線を張るようですみませんが、まだまだ試行錯誤中ですのでガチの求人系ライターさんから見るとなんじゃそれ的なトピックがあるかもです。
「準備八割」はやっぱりホント
求人分野に限らない話だが、取材の成否は事前準備にかかっている。まさに準備八割。
私の場合は、
1.会社の基本情報や特長を知る
2.質問事項を抽出してカテゴライズ
3.その会社の「ファン」になっておく
という3ステップを踏むようにしている。
※広告のターゲット像の把握や記事の方針などについては、別プロセスとして入念に行うことなので、本エントリーでは割愛。
準備のステップ1-新卒採用ページなどで、基本情報や特長をつかむ
当たり前すぎるので油断しがちだが、基本情報はわりと多岐に渡る。
・サービスや商品の特徴
・業界大手や競合の社名(正確には分からなくても当たりはつけておく)
・創業年
・おもな拠点
・代表社のお名前
・代表者のおおまかな経歴(創業者かどうか)
・社員数
・売上
など5W1H的な視点で事前に書き留め、可能な限り暗記しておきたいところ。
これらの情報を拾うのは、各社ウェブサイトの中でも新卒採用ページが効率的である。
特にB2B企業であればウェブサイトは業界向けの専門的な内容が中心になっていることが一般的だが、新卒採用に関するページであれば「その会社が提供している価値」についてかみ砕いて説明されていることも多い。
そして同時に、リクナビ・マイナビ・DODA・あさがく、あるいは新興のWantedlyあたりも全てチェックしておきたい。これによって、後述するような自分を「ファン」として洗脳していく素地もできる。
また、新卒採用ページでは拾えない基本情報として「取材対象者のお名前」と「ポジション」も準備の初期段階で把握しておきたい。
準備のステップ2-質問を「定量」と「定性」でカテゴライズして書き出す
質問事項は前もって洗い出しておかないと、漏れが生じるし散漫な取材の流れになってしまう。取材は、会話の偶発性も楽しむような「対談」とは全く違う。
質問を事前に書き留めていく際に有効なのは、大きな枠で分類することだろう。
私の場合、「定量質問」と「定性質問」に分類・ナンバリングし、書き出していく。
インタビュー中は話の流れによって質問の順序を変更することも多いが、こうすることで対応しやすく、漏れも防ぎやすい。
また、当然だが、抽出する質問はターゲット像に沿ったものでなければならない。
定量質問は、取材中の事実確認に活用
「定量質問」は、給与や福利厚生だったり、募集している部署の人員構成だったり、平均在職年数など数値化できる客観的な事実の確認をしていくというもの。
これらは事前に情報を拾いやすいので、取材中は正否のチェックだけで済むことが多い。
つまり事務的にさっさと確認していくものであり、募集要項エリアの材料に使ったり、定性質問を繰り出していく際の精度を高めるために使うものだともいえる。
取材時の時間配分で考えると、定量質問:定性質問=3:7ぐらいのイメージだ。
定性質問こそが重要
問題は「定性質問」。
その職場の実態が、自分にとって心地よい・好ましい空間かどうか。それを読者が判断するための材料を拾うわけだ。
しかし、取材時に漠然と「社風はどうですか」などと問いかけてしまったが最後、「アットホームで」「フラットで」「風通しが良くて」という定型のキーワードしか先方も繰り出しようがなくなってしまう。
もちろん、本当にそうとしか表現しようがない場合は仕方がないのだが、その会社の個性がにじんで具体性のある情報を収集できてこそ意味がある。
そこで、定量情報の掘り下げ・絞り込みをしつつ、具体的でエモーショナルな言葉を引き出せそうな質問を考えておく。
それによって、もし以下のようなやりとりになれば、漠然と”アットホームです”と表現する意外の言葉が生まれるし、記事としてのエッジにも繋がる。
——
Q:有給取得率も90%で月間残業時間が10時間未満と少ないようです。働き方改革が叫ばれる以前からその傾向があったのでしょうか。また、そうであれば、背景にある会社としての意図をお聞かせください。
A:お恥ずかしい話ですが創業当初は、遅くまで働いてガンガン稼いでください、というスタンスでした。
しかし、20年ほど前に離職が相次いで、社員が疲弊していることに気づかされたんです。それ以来、つまり政府の働き方改革とは関係なく、社員がリフレッシュできる環境作りがなされているか、ひいては自分の家族と同様に大切にできているかということが、経営会議で毎回確認すべきテーマとなっています。家族なら、早く家に帰ってきて欲しいですよね。
——
過去に実際にこういうやり取りになったことがあるのだが、会社のスタンスが分かるコメントだと思う。
そして、このケースに限れば「ウェットな社風は自分に合わない。もっと外資のようにドライでガンガン働いて稼げる会社がいい」と考える人からのミスマッチな応募も防げる。
また、取材対象者が2名以上いる時(特に上司と部下)に
「この取材という機会をつかって、普段聞けないような質問を相手の方にしてください」
とお願いをする場合もある。
これによって予定調和ではない、予想を超えたナイスな発言・情報も飛び出しやすくなる。
時には、相手の温かい言葉に感情が高ぶって涙目になっておられる方もいた。
経験上、この質問は空気がほぐれた後半で投げ込むのが良い。
準備のステップ3-その会社の「ファン」になっておく
その会社にポジティブな印象を持ち、ファンになった状態で訪問しておきたい。
こちらが好意を持って接することで心理学でいうところの”返報性”が生じ、相手からも明るいコメントが出やすくなるし、のちの執筆時のテンションも上がって自分が書きやすくなる。
ファンになるために私の場合は
・ステップ1でポジティブな要素を拾い出しておく
・社長のお名前でググっておいてインタビューがあれば読み込んでおく
ということを意識的に行っている。
社長が当日の取材対象ではないとしても、社長の性格≒会社の性格という側面もあるので、ここから自分にとって好ましい要素を収集しておきたい。
手軽に買えるような製品やサービスを提供している会社であれば、資料として取材前に買ってしまうこともある(調べているうちに欲しくなったりするのだ)。
さらに新卒採用コンテンツの多くに「先輩インタビュー」が掲載されているので、これもチェック。
会社の顔として広報活動に駆り出される社員さんはどの会社でもだいたい決まっていて、その人が当日の取材対象にもなっていることが多々あり、いい予習になるのだ。
先輩インタビューにはたいてい趣味の話なども書かれているため、そこを切り口に「プライベートも充実させられる就業環境」のエピソードや、これまでどこにも書かれていなかったパンチラインが拾えるチャンスともなる。
いざ当日!現場にて
アイスブレイクをどうしたらよいか問題
取材慣れした社長、あるいは広報や人事担当者さんでない限り、先方はたいてい緊張されている。
「緊張しています」と言ってくれるのはまだ余裕があるほうで、それすら言えないほどカチカチに冷え固まっている方もおられる。緊張の裏返しで、不機嫌を装う方すらいらっしゃる。その気持ち、ちょっとわかるよ。
私がやっていることは3つ。
1つ目は、共感。
「何度取材をしても、私も毎回緊張するんです」と率直に伝える。実際、初対面の方を相手に見知らぬ場所で限られた時間のワンチャンスの取材で・・・ワイのほうがよっぽど緊張するんやで、と思う。
2つ目は、安全性の確認。
話に失敗しても何も問題がない、リカバリができると明言する。「後で原稿チェックしていただけますので、どんどん失言なさってください(笑)」などと言うようにしている。このあたりが、広告とジャーナリズム的な取材との大きな差だろう。
3つ目は、ポジティブな雑談。
なんでもいいので、会社に関する明るい軽口を言う。
「今日みたいに雨が降っていても、駅直結のこのビルなら濡れずに来れますねー。助かりました」
とか、本音でいいなと思った事柄をお伝えして会話の糸口を探すようにしている。※ただし、何も思いつかなければ言わない。嘘くさいおべっかは場が冷えてこちらも緊張するだけなので、言わない方がマシ。
個人的にはアイスブレイクの長い人が苦手で、早く本題に入ろうぜと思ってしまうたちなので、1~2分でこれらを終わらせるようにしている。
記録について
まずは「原稿を書いたら完全消去しますんで(何を言っても大丈夫です)」と断りを入れつつ、早めにICレコーダーをONにする。インタビューに突入するとついボタンを押し忘れてしまうからだ。
メモについては、要所要所で軽くおこなう程度でよい。
書くことよりも、相手の発言に耳を傾けつつ適した質問を繰り出すことに自分の集中力を割り当て、「あとで録音を聞き返せばいい」と開き直っている。
なお、質問項目はナンバリングしているので、ノートに書く際は、何番の質問に対するものなのか同時に記すようにしている。
ちなみに私の場合は、手ごたえがあった取材であればあるほど、原稿作成時に録音データを聞き返すことが少ない。簡単なメモだけで十分に記憶がよみがえるからだ。
また、これは完全に好みの問題だが、ノートPCを広げてリアルタイムで原稿を下書きしていくような形式はとらないようにしている。
目の前で猛烈な勢いで画面を見ながらカチャカチャされるのって、取材される側としてはどうなんだろう?という疑問がかすかにあるのだ。
「こっちを見ずに自分の仕事をさっさと進めている」感じもするんじゃなかろうかと……考えすぎですかね。
撮影について
限られた時間でベストな素材を収集するためには、媒体や取材先・記事の性質について事前にカメラマンに伝えて、ある程度のプランを決めておきたい。
ぼんやりしたイメージのまま現場に行くと「なぜかみんなで並んでニッコリ」といった、お決まりの写真だけになってしまうからだ。
もちろん、実際は現場じゃないと得られない情報も多いので、事前に決めておくカットが6~7割、当日ヒントを得て撮るカットが3~4割、という割合になる。
いずれにしても記事の大意と合致しつつその会社の個性を表現できる、分かりやすいカットを撮らねばならない。
また、構図やアングルの細かい点に関しては、プロであるカメラマンに任せている。
カメラマン以外が構図をあれこれ言いだすと時間がどんどん吸われてしまうし、そこまで色々言えるライターならば、自分で撮った方がたぶん早い。
その他、映り込むとノイズになりそうな要素を排除しておくことも大事だ。被写体の胸ポケットぎっちりと詰まったペンを抜いてもらったり、デスク上の雑多な文房具やコップをどかしたり、現場でほぼ100%発生するタスクである。
そういった入念な計算の末(?)、寡黙な男性社員が「にっこり笑ってお尻を突き出しダブルピース」するという、ご本人にとって地獄のような撮影をしたことがある。
会社全体としては非常に活気があって明るい雰囲気が売りなので、記事内でフキダシをつけてキャラクターイラスト的に使いたかったのだ。蛭子能収のマンガのように額に汗を垂らしながら頑張ってくださった姿を今でも思い出す。
実際にその求人原稿は、無事に反響があり良い人材も採用できたようだ。
黒いウワサをどう処理するか問題
今のところ幸い大手媒体や自治体経由での取材ばかりなので、悪評が立っているような企業と遭遇したことはほぼない。
ただ、質問事項をリストアップする際に社名で検索をすると、口コミサイトなどで「……ちょっとこれは」という情報を目にすることもある。
もちろん当社は広告の仕事として請け負っているわけだが、さすがに黒を白とは書きたくはないし、極端に良いことばかり書いても可視化されたこのネット社会では嘘くさくなってしまう。
そこで当日の取材中に話題として避けたら逆に不自然だったり、どうしても気になった時は
「真偽はさておき、ネットの書き込みでたまたまこういう話も見ちゃったんですけど・・・現状はどうなんでしょう?」
というきわどい質問を放り投げてみることもある。
こいつアホかよ!という空気になったこともありますけどね、いいんですよ、なにかトータルでプラスになる情報さえ拾えれば。
その結果、
「確かに4-5年前まではそうでした。しかしその件を大きな課題として捉えて、今は180度転換し、これこれこうなっています。」
という真摯な説明を聞くことができれば、記事にしやすい。
そういう意味では過去に1度だけ、こちらから案件をお断りした会社があった。
わりと名前の知れた会社なのだが、サービスの根幹をなす理論があまりにもカルト的・疑似科学的で、そんなものが広まったら社会に良い影響はない気がして、どうしても「ファン」になれなかったのです。
このようにして”取材”という字のとおり材料が取れたら、あとは書き起こしていくわけだが「ライティング」のノウハウについては、またいずれ述べさせていただきたい。
いやほんとノウハウといえるような大したものは一切持ち合わせていないですけど。
役に立った参考書籍
取材やライティングに関して、私が個人的に役に立ったなあと感じている書籍を以下に並べます。