2019日4月19日に発生し母子二人が犠牲になった、東京・池袋での乗用車による暴走事故。
遺族の方の会見もニュースで流れていたがあまりにも痛ましく、見ていて言葉を失った。
池袋に住んでよく現場付近を通っていた時期があり、他人ごととは思えなかった。
現時点で確定はしていないものの、なんらかの原因で運転手がアクセルを踏み続けたことが原因のようだ。
そして偶然にも事故の4日後である2019年4月23日、国土交通省から衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる自動ブレーキ)の認定制度が発表された。
もしあの事故を起こした車に最新の衝突被害軽減ブレーキが搭載されていれば、結果は違ったのだろうか。
結論から言えば、現状では防げない可能性が高そうだ。
国土交通省の発表資料も見つつ、確認していきたい。
国土交通省「衝突被害軽減ブレーキの性能評価認定結果」の概要
暴走事故の運転手も87歳と高齢であったが、今回の国土交通省「衝突被害軽減ブレーキの性能評価認定結果」の報道資料によれば
高齢運転者による交通事故を防止するために設置された「安全運転サポート車」の普及啓発
とある。
国としてもそれなりの危機感を抱いているということなのかもしれない。
そして今回、衝突被害軽減ブレーキ搭載車として認定されたのは、8社67車種152型式とかなり多く、急速な普及もうかがえる。
資料引用元:国土交通省ウェブサイト
このように衝突被害軽減ブレーキ搭載車が評価・認定され、どんどん増えてゆくこと自体はとても良いと思う。しかし、認定車であればペダル踏み間違えによる暴走や歩行者への加害が防げるかというと、必ずしもそうではない。
歩行者に対する安全性は認定基準の対象外
「衝突被害軽減ブレーキの性能評価認定結果」によれば、下記3条件をクリアした車種が認定されるそうだ。
1.静止している前方車両に対して50km/hで接近した際に、衝突しない又は衝突時の速度が20km/h以下となること。
2.20km/hで走行する前方車両に対して50km/hで接近した際に、衝突しないこと。
3.1及び2において、衝突被害軽減ブレーキが作動する少なくとも0.8秒前に、運転者に衝突回避操作を促すための警報が作動すること。
ここで注意したいのは、 すべて「前方車両」や「警報」が条件であり、歩行者や自転車への対策は認定基準に含まれていないという点。
つまり、認定マークが貼られた車であっても、必ずしも先日の暴走事故のような状況に対して直接的な安全策を施しているわけではないということになる。
もちろん、なにもないよりは遥かにマシではあると思うが、この”お墨付き”を過信しないようにしたい。
なお、「ペダル踏み間違い時加速抑制」や「歩行者に対しての衝突安全性」については、すでに国土交通省の外郭団体であるJNCAPが試験をしているが、今のところ認定制度ではない。
参考:JNCAP「予防安全性能アセスメントの概要」
【トヨタに確認】最新の衝突被害軽減ブレーキが装備されていても、ドライバーがアクセル踏み込んでしまうと暴走は防げないらしい
報道写真を見る限り、今回事故を起こした車種は、2代目プリウス(NHW20型)に見える。
10年以上前の設計で、もちろん衝突被害軽減ブレーキが搭載され始めるより前のモデルだ。
では仮にこれが最新型の現行プリウスで、トヨタが誇る最新の予防安全機能「Toyota Safety Sense(トヨタセーフティセンス)」を搭載し衝突被害軽減ブレーキが作動していれば防げたのだろうか。
トヨタ自動車の広報に現時点の仕様を問い合わせてみたところ、以下のようなことが分かった。(あくまで本エントリー作成時点での情報です)
一言でいうと、ドライバー自身による明確な操作があると暴走は防げない。
・衝突被害軽減ブレーキ作動時でもアクセルを踏み続けているとドライバーによる「回避行動」と判断され、衝突被害軽減ブレーキよりもドライバーの操作が優先される。
つまり、作動が解除し加速されてしまう。
・強い加速をしている最中(≒高速道路の合流時などドライバーの意思としてアクセルを踏み込んでいるとおもわれる時)は作動しない。定速走行時なら作動する。
もちろん、この仕様は妥当だと思う。 現時点では自動運転技術は認可も実用化もされておらず、あくまでドライバーの判断を優先とした補助的な機能でしかないからだ。 そういう意味で各自動車メーカーも「自動ブレーキ」とは表現していない。
今回の事故を受けて「自動運転の実用化を早く」という声もあるようだが、現時点のAIで都心のカオスな道路状況に対応するのは不可能だろう。誤認識のリスクの方が上回るはず。
テクノロジーへの期待ももちろんだが、運転に支障がある人が乗らずに済む仕組みを国が一大プロジェクトとして整備していかねば、とてもではないが超高齢化社会に間に合わないと思う。