映画『メランコリック』感想(ネタバレあり)

映画館がそんなに得意ではない。
雑念だらけの性格なので隣の人のモゾモゾ・カサカサが耳につくし、自分の座席位置が悪いと
「あと5列右ならもっといいのに」
という考えがよぎって集中できなかったりもする。

それでも時々、
「これを映画館で観ておかないと俺はきっと後悔する」
という勘が発動する映画がある。
この『メランコリック』がそうだった。

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<あらすじ>
バイトを始めた銭湯は、
深夜に風呂場で人を殺していた――!?
名門大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・和彦。ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・百合と出会ったのをきっかけに、その銭湯で働くこととなる。そして和彦は、その銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。そして同僚の松本は殺し屋であることが明らかになり…。
画像・あらすじは公式サイトより
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見終わった感想を一言でいえば、最高。
作り手の熱でグラグラ煮えた湯気が、スクリーンから立ちのぼっているように感じましたよ。

制作しているのは、OneGooseという映像ユニットだそう。
監督の田中征爾氏は会社員と兼業で、オンライン授業サービス「Schoo」のディレクターらしい。
→Schoo採用ページでの田中氏インタビュー記事

意外な舞台とその説得力

昭和の香りが漂う、ひなびた銭湯・松の湯。
そんな場所で日常的に殺戮が行われているというのが面白い。

まさか……いや、あり得るかも?と思わせる素晴らしい舞台設定だと思う。
実話をもとにした映画『凶悪』でも、ヤクザに押し切られて死体処理に焼却炉を貸す土建業者が登場したし、銭湯はその焼却炉に加えて排水設備まで兼ね備えた”死体処理にパーフェクトな場所”にすら見えた。

この松の湯もしかり、主人公・和彦の実家など下町のありふれた風景で静かに繰り返される異常事態にゾクゾクさせられっぱなしだった。
なお、スクリーンに映り込んでいる住所プレートが「猫実四丁目」となっていて、架空の地名かな?と思って調べると浦安に実在した。

※ストリートビューで見つけて「うわ!ここ、あのハイエース停めてた場所!」と興奮↓

登場人物が全員、超・魅力的

うだつのあがらない主人公の巻き込まれ型映画という定型ではあるが、その ″うだつのあがらなさ″の匙加減も実に良い。
回りくどい喋り方・垢ぬけない服装・もっさりした動き、どれをとっても
「いるよこういう人!……ていうか、俺もちょっとそうかも」
と思わされてしまう演技力。
ここらへんが説明臭かったりデフォルメして描きすぎて嫌だなと思わせる邦画がちらほらある中、本作は完璧だと思う。
監督も前述のインタビューで、自身の感じた劣等感を作品に反映していることを語っており、作り手のウソのなさを感じる。
主人公がヒロインとデートするシーンではダンガリーシャツの左襟だけがジャケットから絶妙にはみ出ていて、それな!そういうとこな!と心の中で叫んでしまった。

主人公以外も全員、すべからくキャラクター設定や演出上のメッセージが練られていて、どんどん実在の人物に見えてくるのがすごい。

同僚・松本の屈託なさと行動のアンバランスさ、底知れなさ。※松本のファンになる人は多いはず
ヤクザ田中の敬語で人を追い込んでいくぞんざいさ。
和彦の両親の、人畜無害だけど現実と対峙せずどこか上の空のような佇まい。
銭湯オーナー東の口癖「おーけぃ?」は、『凶悪』の「ぶっこむぞ」とか『冷たい熱帯魚』の「ボデーを透明にする」と同じで耳につく名台詞だ。

★ここからちょっとネタバレです

 
 
 
もちろん映画の成り立ちゆえか、ちょっとした粗さというか、観ていて微かに気になる点はあった。
たとえば終盤である人物が撃たれるのだが、ありえないほどの回復を見せたり。

とはいえ、そんなことは作品全体の魅力にぜんぜん影響しない。

清涼感と刹那的なムードが交錯したエンディングも良かった。
物語の途中で「何のために生きているのか」という問いが出てくるが、その答えがラストの和彦のモノローグで表現されている。
もしも未来に暗い影が差していようと、和彦が言うところの「この一瞬」があればそれで人間ってけっこう満足なのかも知れない……
そんな余韻を感じさせる終わり方が素晴らしい。